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東京地方裁判所 昭和55年(行ウ)16号 判決

原告 若林順治

被告 東京法務局長

代理人 野崎弥純 松岡敬八郎 ほか一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者の求めた判決)

第一請求の趣旨

原告の東京法務局調布出張所登記官に対する旧土地台帳附属地図訂正の申立を同登記官が拒絶した行為について原告のした審査請求を被告が昭和五四年一一月五日付で却下した裁決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

第二請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

(当事者の主張)

第一請求の原因

一  東京法務局調布出張所備付の東京都狛江市岩戸北一丁目一二一一番及びその周辺に関する旧土地台帳附属地図(以下「本件公図」という。)には、原告所有の同番の八の土地の北側及び西側に無地番の土地があるように表示されている。

原告は、昭和五四年五月二二日、東京法務局調布出張所登記官に対し異議申立書を提出し、右無地番の土地は原告の所有地に含まれるものであるから本件公図の記載をその旨訂正するように求めたが、同登記官はこれを拒絶した。そこで、原告は、昭和五四年六月一一日、右拒絶について被告に審査請求をしたところ、被告は、同年一一月五日、これを却下する裁決(以下「本件裁決」という。)をした。その理由とするところは、本件公図の訂正をすると否とは、原告の権利義務その他法律上の地位に影響しないから、不動産登記法一五二条にいう「登記官の処分」に当たらないというものである。

二  しかし、原告の所有地を正しく表示していない本件公図を訂正することが原告の権利義務その他法律上の地位に影響を及ぼさないとの被告の判断は誤りであるから、本件裁決は違法というべきである。

よつて、本件裁決の取消を求める。

第二請求原因に対する認否及び被告の主張

一  請求原因一の事実は認める。同二のうち、本件公図の記載に誤りがあるとの点は否認し、その余の主張は争う。本件の無地番の土地は、いずれも国有畦畔であつて、原告の所有地ではない。

二  旧土地台帳附属地図(以下「公図」という。)は、登記事務を処理するための登記所の内部的な資料にすぎず、その訂正又は不訂正は、公図上の土地の権利者の法律上の地位に直接影響を及ぼすものではない。したがつて、公図の訂正を行わない登記官の行為は、不動産登記法一五二条にいう「登記官の処分」に当たらないから、本件裁決には違法がない。

理由

一  請求原因一の事実は、当事者間に争いがない。

二  公図は、旧土地台帳法施行細則二条により、土地の区画及び地番を明らかにするため登記所に備え付けられ、昭和三五年に旧土地台帳法及び旧土地台帳法施行細則が廃止された後も、不動産登記法一七条所定の図面が整備されるまでの間引き続き登記所に保管されて、事務処理上の参考資料に用いられるとともに、一般人の閲覧等にも供されているものである。そして、かかる公簿としての公図の記載が、取引その他の社会生活上、土地の権利関係に関してある程度の証明力を有するものとして取り扱われていることは、当裁判所に顕著なところである。

しかしながら、旧土地台帳制度が廃止された現在においては、公図は不動産登記法その他の法令に根拠を有するものではなく、もとより、公図の記載によつて土地の実体的権利関係が左右されることはあり得ず、公図のもつ前記の証明力なるものも単なる事実上のもので、反証を挙げてこれを争うことが許されているのである。したがつて、他に公図の記載がなんらかの法的効力をもつことを認めた法令の規定が存しない以上、その記載のいかんは関係土地の権利者の権利義務その他法律上の地位に直接具体的影響を及ぼすものということはできないから、公図の記載の誤りを主張してその訂正を求める権利者の申立に対し登記官がこれに応じ又は応じなかつたとしても、それによつて右権利者の法律上の地位に直接影響を及ぼすことはないというほかない。このように、公図自体について不動産登記法令になんらの根拠がなく、しかも、権利者の法律上の地位に直接影響を及ぼすことのない登記官の公図訂正又は不訂正の行為は、不動産登記法一五二条により審査請求の対象となり得る「登記官の処分」には当たらないと解するのが相当である。

三  以上のとおりであるから、本件裁決が公図訂正の申立拒絶に対する原告の審査請求を却下したのは適法というべきであり、その取消を求める原告の請求は理由がない。

よつて、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤繁 泉徳治 菅野博之)

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